ロシアのオフショア・ソフトウエア開発体験記

プログラミングは1時間あたり23米ドルが標準

ソフトウエアの海外発注というと、インド、中国、イスラエル、最近はモスクワやペテルブルグ企業を採用する日本企業も増えているが、 シベリアの技術者のシステム開発能力はこれらの場所に劣るものではない。「科学者の街」として知られるアカデムガラドクは、 高度な専門知識を有する物理学者、数学者、コンピュータ科学者を多数輩出してきたことでも名高いが、その伝統を引き継ぎ、 現在も多数のロシア人技術者が、数々の欧米企業向けのシステム開発に携わっている。

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筆者が所属するノボソフト(2002年当時)は、1992年に6人のベンチャー企業家によって設立され現在470名の社員を擁する、 ロシアを代表するソフトウエア企業の一つである。ノボソフトでは2001年から、日本向けアウトソーシング開発を開始し、 これまでに日本語システム8件を納入、現在進行中も5件ある。日本とのビジネスを拡大するために、昨年から日本人技術者(筆者)を採用、 日本語翻訳専門会社とも業務提携し、日本語の仕様書翻訳に備えている。

2001年のアメリカの市場調査会社ガートナーのレポートによれば、ロシアの海外向けアウトソーシン グ企業ランキングの中で、ノボソフトは第3位にランクされている。技術力、品質、納期、管理体制などが総合的に評価された結果だが、 こと日本向け開発に関していえば、日本人技術者と日本語翻訳チームを擁するノボソフトは、間違いなくロシアで一番である。 他のロシア企業は、英語による開発が前提となっているところが多い。

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ノボソフトの技術者470名のうち約7割が修士または博士課程を修了、電子工学、数学、物理、コンピューター科学の専門家の他、 欧米企業との技術協力により、IT分野では世界最高レベルのシステム開発にタッチした多くの経験者を擁する。 これらの多種多様な技術者を利用することで、異なるプラットフォーム、OS、言語による複雑なシステムを洗練されたシステムに統合することができる。 既存の古いシステムを最新ツールを使った新しいシステムに再構築する、システムインテグレーションは,ノボソフトの得意分野の一つである。

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また、プログラマの数で見ても、C++250名、Java160名、XML61名、HTML233名など、プログラム量産に耐える人材を擁している。 開発・管理手法としては、RUP(Rational Unified Process)を採用。UML(Unified Modeling Language)による分析、設計を行ない、 CMM(Capability Maturity Model)2,3レベルに認定されている。また、Microsoft、Sun、IBM、Lotus、Hewlett Packard、Samsungの開発パートナーであり、 ロシアのPrometricTestingCenterとして認定され、ここでCisco、Compaq、IBM、Intel、Microsoft、Novell、Oracle、Sunの公認試験が行われている。

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  開発単価はWebデザインが一時間あたり18米ドル、プログラミングは一時間あたり23米ドルが標準だ。海外発注では、 単価は安いものの仕様理解や技術力に問題があり、結局工期が延びて、日本側の疲労が少なくない、ということがよく言われる。 しかしノボソフトでは、通常の業務システムやWebソリューションはもちろん、 ドライバや組み込みシステムなどの専門分野でも他のアウトソーシング企業に比べ、特に短期間低コストで開発が可能である。

「商習慣の違い」から生じる問題

しかし、ノボソフトのような企業でも、実際に日本企業から受注開発を行う場合、問題がないわけではない。問題の多くは、 言語によるものではなく、商習慣の違いによるものだ。

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例えば、ゼロ状態からシステムを開発する場合、ノボソフトのRUP手 法では、わかっている範囲をまず仕様化し見積りし契約する。当然、追加仕様が発生するが、それは分析・見積・契約という次のサイクルになる。 そのため、開発当初に全体仕様が把握できない場合、最終的な開発コストも見えない。しかし日本では、仕様ベースではなく、 始めに予算があり、納期があり、とにかくその範囲で納めてほしい、という要求が多い。

仕様ベースで開発する場合のメリットは、必要最小限のコストしかかからないということだ。 コストは実際に技術者が働いた時間を0.5時間刻みで積み上げていく。技術者はプロジェクトに配置された時間分だけの給料をもらう。 給料は時間ベースであり、月20時間の社員もいれば月200時間の社員もいる。ちなみに基本給はないがボーナスはある。

しかし、仕様があいまいな「どんぶり勘定」の場合、当然開発リスクが大きいので、見積金額も実工数より大きくなりがちだ。 日本の社員は通常、実現した機能に対してではなく、日8時間週5日机に向かった時間に対して給料を受け取る。

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仕事に対する熱意に関しても、「ジャパニーズ・ビジネスマン」は特殊である。仕事の人間関係(顧客を含む)を大切にし、 会社のため、顧客のため、残業、休日出勤も厭わない。仕事の人間関係の中に労働の喜び、 人生の喜びを見出している人は少なくない(私もその一人だ)。しかし、欧米・ロシアでは、その点非常 にクールだ。報酬がなければ働かない。顧客が困ろうが会社が困ろうが、助ける義理はない。超過労働が必要な場合は厳密にその分のボーナスを要求する。 もちろん、プログラミングという作業は、それ自体、非常におもしろい作業なので、プログラマは問題解決のために自主的に残業することはあるが、 それを最初から期待することができない。

シベリアのオフショア開発能力は、ノボソフトだけに限ったものではない。ノボシビルスクにはノボソフトと同様の、 ある面では更に特化した技術力をもつ小規模のソフト開発会社がいくつかある。例えばソフトーラという会社は、 日本語対応のできるロシア人が在籍しているが、一時間あたり15米ドルで開発を請負う。もし開発仕様書がしっかりしていて、 英語対応でもよい、ということになれば、このような単価の安い、しかし技術力のある中小企業と提携するのもいいだろう。 更に、現地に開発拠点(日本企業の支店)を設け、ロシア人技術者を雇えば、日本の数分の一という低いコストでシステム開発が可能だろう。

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ノボシビルスク(日本人にとっては舌をかみそうな名前だ)は、日本にはまだあまり知られていないが、 ノボシビルスクのロシア人は日本をよく知っている。非常に多くの日本の車(中古車だが非常に高品質)が市内を走り、 日本のアニメ(ポケモン、セーラームーン、キャンディ・キャンディなど)が毎週放送されている。 シベリア北海道センターでは、ひなまつり、こいのぼり、日本語スピーチコンテストなどが開催され、 毎回200人近い日本愛好者が集まる。モスクワでネオナチ騒動があったとき、 ノボシビルスク市民は「ノボシにはネオナチはいない」と断言した。サッカーでロシアが負けたときは、 日本チームを称えロシアチームをこき下ろした。

ノボシビルスクはシベリアの豊かな自然と発達した産業のもと、他のロシアの地域にくらべ、人々の生活に余裕がある。 幸か不幸か外国人が少ないため、外国人差別もない。もし隣国ロシアの豊かさを満喫したいなら、ノボシビルスクに足を運ぶことをお勧めする。

2002年記

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